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秘密保持契約書(NDA)のチェック項目(受領者編)初心者でもできる!

新しい委託先や仕入先の候補企業から秘密保持契約書(NDA)の締結を求められることがよくあります。
相手方がNDA締結を求めてくるということは、何らかの営業秘密が開示・提供されるということです。
しかし、不用意に営業秘密を受け取ると、予想外に自社の事業活動が制約されるリスクがあります。例えば、他社への委託や仕入れができなくなることや、自社での内製化の妨げになるリスクがあります。

そこで、このコラムでは、秘密情報を受領する側の立場で最低限押さえておくべきNDAのチェック項目を解説します。ここで解説する6項目を知っておくと、初めて契約書を見る方でも、落ちついて相手とスムーズに契約交渉ができるでしょう。

チャンスがリスクに変わらないように、ぜひ、最後まで確認してください。

ポイント1:NDAを読む前に確認する事項

秘密保持契約書(NDA)とは

秘密保持契約書(NDA:Non Disclosed Agreement)は、本格的な取引を始める前に、お互いに相手の技術力や営業力等を把握するために必要な情報交換を行う場面で締結される契約書です。裏を返せば、まだお互いに手探りの状態です。そのため、お互いに過度な期待は禁物です。

秘密情報の授受の要否

受領者としては、公開情報だけで情報交換することを相手に提案してみる方法があります。この場合は、NDAの締結は不要です。
相手からどうしても秘密情報を受け取らないといけない場合に限って、NDAを締結するようにしましょう。そして、NDAの段階では、お互いに過度な期待や制約をしないようにして、当事者の負担も最小限に留めましょう。

もし、より具体的な技術・ノウハウの開示を伴い、研究開発等が行われる場合や、何らかの成果が発生することが期待される場合には、開示される情報の内容・重要性等も考慮しながら、より具体的な内容を相手と取り決める必要が ありますので、NDAではなく、共同開発契約や開発委託契約の締結を検討しましょう。

〈関連記事〉
秘密情報を開示する立場の場合は
【開示者の立場】秘密保持契約書(NDA)のチェックリスト(初心者が1人でも確認できる!)
をご覧ください。

ポイント2:秘密情報授受の「目的」

NDAで「目的」を定める規定は、受領当事者が秘密情報を利用できる範囲を定めています。つまり、「本目的」の範囲内での秘密情報の開示や利用は、NDA違反にならないとされていることが多いです。そのため、受領者が相手の秘密情報を内製化の目的で利用し、又は他の第三者に開示して製造委託をしたい場合、そのことを、「本目的」の範囲を正しく記載する必要があります。

ただし、NDAの利用場面は、取引の可否の検討に留まることが多く、その後の研究開発や量産の際には、別に委託契約書を締結する必要がある点にご注意下さい。
そのため、「本目的」としては、上記例文(第1条)の通り、「〇〇に関する取引開始の可能性」「〇〇に関する共同研究実施の可能性」等の表現を用いることが多いです。このような記載になっている場合、受領者が相手の秘密情報を内製化の目的で利用することはできないと考えられますので、ご注意下さい。

ポイント3:秘密情報と公知情報の区別

相手から開示された情報のうち、どれが秘密情報で、どれが公開情報であるのかの区別をNDAでも明確にしておきましょう。秘密情報であることを確認する方法についての定義の仕方は、次の2つのパターンがあります。

パターン1:【受領者に有利】情報開示のたびに「CONFIDENTIAL」等と表示して秘密指定する方法

第2条(定義)
1「秘密情報」とは、甲又は乙が相手方に対し、①秘密である旨を指定して書面又は電磁的方法により開示する情報、②口頭、実演、上映、投影、その他書面又は電磁的情報を提供しない方法で開示する情報であって、当該秘密情報を開示するに際し、秘密である旨を相手方に告知し、かつ、開示後30日以内に、当該情報の内容を取りまとめて秘密である旨を書面により相手方に通知した情報、及び、③交付するサンプル等の有体物であって、交付の際に秘密である旨を書面で通知したものをいう。ただし、以下の各号のいずれかに該当するものを除く。
① 開示される以前に、相手方が知得していたもの
② 開示された時に、すでに公知であったもの
③ 開示した以降に、相手方の帰責事由なく、公知となったもの
④ 相手方が、正当な権利を有する第三者(相手方以外のすべての者をいう。以下も同様。)から守秘義務を負うことなく合法的に取得したもの

この方法であれば、情報を受領した際、秘密である旨指定されているものだけを秘密情報として扱えばよいことから、公知情報との区別は比較的明確です。

パターン2:【受領者に不利】事前に秘密情報にあたる情報の項目を契約書で明示しておく方法

第2条(定義)
1 「秘密情報」とは、次の各号に定めるものをいう。
(1)開示者が受領者に対し開示する技術上、営業上その他の業務上の一切の情報のうち、次のいずれかに該当するものをいう。
①紙、電子媒体等の交付、郵送、電子メールの送信等、提供の媒体及び手段を問わず、開示された情報のうち、秘密である旨の表示がなされたもの
②本目的のために提供される開示されるサンプル又は製品は、秘密である旨の表示の有無にかかわら、開示者の秘密情報として取り扱う。
(2)本契約成立の事実及び本契約の内容、並びに本目的に係る検討及び交渉等の内容
(3)秘密である旨の明示の有無及び開示方法の如何を問わず、開示者から受領者に対し開示される情報のうち、〇〇の製造方法に関する情報(〇〇の製造の際に用いられる設計図面、〇〇の値のパラメータ情報等を含むが、これに限られない。)
(4)秘密である旨の明示の有無及び開示方法の如何を問わず、開示者から受領者に対し開示される情報のうち、〇〇の製造装置に関する情報(当該装置の構造、設計情報、使用方法等の情報等を含むが、これに限られない。)
(5)相手方の施設内において,受領者の役員又は従業員等により,見聞きし,知得し,又は認識された情報の内,秘密である旨の表示の有無にかかわらず,知得時の状況下で,秘密と認識され又は合理的に認識されるべき情報
(6)○○

この方法の場合、情報を受領した際に、秘密である旨の表示が無いものであっても、契約書で事前に明記された項目の情報については、その情報が秘密情報として取り扱われる可能性が高まります。受領者としては、秘密情報に該当するかを都度判断する手間や見落としリスクがある点には注意下さい。

秘密情報の例外:【中立】公知情報等を秘密情報から除外する

ただし、以下の各号のいずれかに該当するものを除く。
① 開示される以前に、相手方が知得していたもの
② 開示された時に、すでに公知であったもの
③ 開示した以降に、相手方の帰責事由なく、公知となったもの
④ 相手方が、正当な権利を有する第三者(相手方以外のすべての者をいう。以下も同様。)から守秘義務を負うことなく合法的に取得したもの

開示者から受領した秘密情報について、実は自社にも前から保有しているものと同一であることや、すでに公開されている情報についてCONFIDENTIA等の秘密指定を受けるというケースもあります。
そのような場合に備えて、秘密情報の定義では、もともと自社にあった情報や、すでに公開されている情報については、秘密情報に当たらないことを規定していることが一般的です。

ただし、実際の裁判になった場合は、もともと自社にあった情報であることや、公開情報であることは受領者側で証明が必要になること多いです。そのため、相手から受領した情報と、もともと自社にある情報をしっかりと区別するように情報管理を徹底しましょう。また、相手が秘密指定した情報の中に公開情報がある場合、公開情報の裏付け資料が無くならないようにしっかりと社内で記録を残しておきましょう。

ポイント4:関係者への開示(守秘義務の例外)

第〇条(〇〇〇)
1 受領当事者は、開示当事者の事前の書面による承諾を得ることなく、本件目的のために必要な範囲で、受領当事者の[役員、従業員、弁護士、公認会計士、税理士、関係会社]に秘密情報を開示することができる。
2 前項の場合、受領当事者は、その開示を受ける者に対して、本契約に定める秘密保持義務と同等の義務を課し、その義務の履行について責任を負うものとする。
3 受領当事者は、法令又は裁判所、政府機関、金融商品取引所その他受領当事者を規制する権限を有する機関の裁判、命令、規則等により秘密情報の開示を要求された場合、合理的に必要な範囲で秘密情報を開示することができる。ただし、受領当事者は、開示当事者に対して、情報開示後速やかにその旨を通知するものとする。

本件目的の遂行のために、受領当事者が関係者に秘密情報を開示する必要がある場合は、例文のように、例外的に第三者へ開示できることを明示しておくことが望ましいです。

関係者や関係会社等への開示についての例外(1項・2項)
例外的に開示できる第三者としては、主に、次の3つが考えられます。例文では、すべてを含めて書いています(2項)。ただし、必要な範囲に限定することも可能です。
①受領当事者の役員、従業員
②弁護士、公認会計士、税理士等の専門家
③受領当事者の関係会社

なお、これらの第三者に秘密情報を開示するにあたっては、受領当事者がその開示を受ける者に対して、同等の秘密保持義務を課し、かつ、その情報漏洩等の責任を負う旨定めることが一般です(2項)。

法令等に基づく開示についての例外(3項)
法令等に基づく開示についての例外は、法令、裁判所、監督官庁、金融商品取引所の公的機関を記載することが一般的です。

ポイント5:秘密保持期間

秘密保持契約書では、契約の有効期間(1項)はとても重要です。秘密保持の期間として適切な長さであることを確認しましょう。
予想外に過度な守秘義務を負わないように適切な長さの期間を、定める必要があります。

残存条項(2項)が設けられることも多いです。残存期間までは守秘義務が継続します。この残存期間の有無や長さも見落とさないように注意しましょう。

ポイント6:競業禁止、リバースエンジニアリング禁止

競業避止義務

第〇条(競合禁止)
甲及び乙は、本契約有効期間中及び本契約終了後○年間、日本国内外において、独自に又は第三者との間で、本契約の目的と同一又は極めて密接に関連するテーマの開発、製造及び販売する製品の開発、製造及び販売等(以下「競合行為等」という。)を一切行わないものとし、自己の役員、従業員若しくはそれらの親族又は関連会社等に、競合行為等を一切行わせないものとする。

情報受領者がNDAに違反して秘密情報を目的外利用したり、第三者へ開示したりしても、相手(情報開示者)がその事実の証明が難しいことがあります。そこで、例文のように、相手から受領者に同一・類似の目的の取引の検討等を他社と行うことを禁止する定めを求められることがあります。

しかし、NDA段階で、このような受領者側に強い禁止規定を設けることは不適切なことがあります。受領者としては、安易に競業避止義務を負わないよう、競業避止義務の規定を削除することが無難といえます。

リバースエンジニアリング禁止

第〇条(リバースエンジニアリング等の分析禁止)
甲及び乙は、秘密情報について、相手方の事前の書面による同意なく、リバースエンジニアリングその他一切の分析、解析及びこれらに類似の行為を行ってはならない。

例文のように受領者に秘密情報のリバースエンジニアリング等の禁止を定める規定を設けることがあります。しかし、NDA段階で、このような受領者側に強い禁止規定を設けることは不適切なことがあります。受領者としては、安易に競業避止義務を負わないよう、競業避止義務の規定を削除することが無難といえます。

その他の注意点

知的財産権の取り扱い

第〇条(知的財産権)
1 甲及び乙はいずれも、相手方の秘密情報に依拠して、発明、考案、著作物その他の知的財産権の目的となるもの(以下「発明等」と総称する。)を得た場合には、相手方に対し速やかに通知し、また、当該発明等に関する知的財産権の帰属及び取扱いを別途甲乙間で協議のうえ決定するものとする。
2 次の各号のいずれかに該当する発明等に係る知的財産権は、その発明等をなした当事者に単独で帰属するものとする。
(1) 各当事者が本契約締結日前から保有するもの。
(2) 各当事者が、本目的を遂行する過程で、相手方から提供された秘密情報に依拠せずに独自に創出又は取得したもの。

上記のような知的財産の取り扱い規定がNDAで設けられることがあります。
しかし、NDA締結は取引の前段階であることが多く、その場合、知的財産の取り扱いを削除することも一案です。また、仮に設けるとしても上記のサンプル文のように、発明の特許を受ける権利が発明者から他の当事者に移転するような規定とすることは避けるべきです。

もし、何らかの成果の発生や特許権等の権利の移転が想定されるような取り組みを行う場合には、共同開発契約や開発委託契約等を締結することが推奨されます。

 次の段階(将来の契約)への移行の不約束

第〇条(確認事項)
1(略)
2 甲及び乙は、本契約が、本目的を遂行するに際して当事者間で開示される秘密情報の取扱いにつき定めるものであって、当事者間における物品の売買、役務の提供若しくはこれらの予約その他いかなる取引又は本契約に定めのない事項を約定するものではないことを確認する。

NDA締結は取引の可能性を検討する段階であることが多く、その後に本格的な取引に進むか否かは未定のことが多いです。そのため例文のように次の段階(将来の契約)への移行の義務が無いことを確認する規定を設けることが知的財産取引ガイドラインでは例示されています。

まとめ

今回は、秘密情報の【受領者の立場】から、本格的な取引の前に締結されるNDAについて、チェックポイント6点に的を絞って解説しました。

ポイント1:NDAを見る前に、秘密情報の授受の要否を確認しましたか?
ポイント2:受領する情報のうち、秘密情報と公知情報の区別は明確ですか?
ポイント3:秘密情報の利用の「目的」は明確になっていますか?
ポイント4:秘密保持義務の例外を十分に定めていますか?
ポイント5:秘密保持義務を負う「期間」は適切な長さですか?
ポイント6:競業禁止やリバースエンジニアリング禁止等、過度な義務を負っていませんか?

結局、本格的な取引が始まる前の段階では、不用意に相手から秘密情報を受け取らないことが重要です。やむを得ず、秘密情報を受け取らざるを得ない場合、その目的や範囲を明確にし、自社の情報と混在が起きないように情報管理を徹底しましょう。NDAには、受領した情報の利用が過度に制限されていることもありますので、ポイント5,6にも気を付けましょう。

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