【共同開発契約書】委託者の大企業がチェックすべき5点とは | 弁護士監修
共同開発契約書とは、企業や個人が新しい製品やサービスの開発について協力するための取り決めです。新規事業を創出するためには、スタートアップや異業種との共同開発契約が重要です。この記事では、主に委託者(大企業)の立場から、契約書を交わす際にチェックすべきポイント6点について、契約書自動チェックサービス”Collabo Tips”[コラボ・ティップス]を監修するメリットパートナーズ法律事務所の弁護士が解説します。
ポイント1:共同開発の目的(事業化に至ると思いこまない)
共同開発は失敗する確率が高いです。そのため、事業化に至ると思い込まないことが重要です。開発が失敗し得ることを考慮して、共同開発の目的(何を達成したいのか)を確認しましょう。例えば、事業化という視点から離れて、異業種やスタートアップとの協業実績を公表(プレスリリース)することを目的とする共同開発もあります。
第〇条 (共同開発の目的)
1 甲及び乙は、次の通り、本開発を行う。
(1)開発の目的
〇〇の技術を利用した新たな〇〇に係る実用化技術の開発
(2)開発内容
〇〇の技術の応用検討
なお、そもそも、開発プロジェクトが共同開発契約に適しているか、または開発委託契約の方が適しているかを検討することも必要です。中小企業庁の知的財産取引に関するガイドラインによれば、お互いに技術ノウハウを出し合うのであれば、共同開発契約が適切ですが、もっぱら一方の当事者の技術・ノウハウに頼って開発を行う場合は、開発委託契約の方が適していることがあるとされています。
参考
ポイント2:共同開発の役割分担、費用負担及び開発期間
共同プロジェクトでは役割や費用の分担、開発期間を明確にしましょう。
共同開発しても、期待した成果が得られない場合もあります。そこで、共同開発で何を達成したいのか(目的)をよく確認して、それに見合った①役割、②費用、③期間を設定しましょう。
- 役割分担:各当事者の責任範囲や業務分担を明確に定める。
- 費用負担:開発に伴う費用の負担方法や支払い条件を明確にする。
- 開発期間:開発プロジェクトの期間を明確に設定する。
共同開発の役割分担
共同開発の役割分担は、各当事者(甲、乙)が単独で行う業務と、両者が共同で行う業務を区別して記載しましょう。
役割について定めた条項サンプル
第〇条 (役割分担)
本開発の業務分担は、次の各号に定める業務分担項目のとおりとし、その詳細は別途甲乙協議の上その合意により決定する。
(1)甲単独で行う業務
(a) 〇〇
(b) 〇〇
(c) その他甲乙間で合意する業務
(2)乙単独で行う業務
(a) 〇〇
(b) 〇〇
(c) その他甲乙間で合意する業務
(3)甲乙共同で行う業務
(a) 〇〇
(b) 〇〇
(c) その他甲乙間で合意する業務
役割分担は、次の通り、成果の権利がどちら(誰)に帰属するのか、に影響します。
(a)甲単独で行う業務の成果 ⇒ 甲に権利が発生
(b)乙単独で行う業務の成果 ⇒ 乙に権利が発生
(c)甲乙共同で行う業務の成果 ⇒甲乙で権利を共有
共同開発の期間:長期化するとリスク増
第〇条 (開発期間)
本開発に係る開発期間は、〇年〇月〇日から〇年〇月〇日までの期間とする。ただし、甲乙協議の上、書面により延長することができる。
開発期間が年単位で長期化すると開発費が嵩み損失が発生することが考えられます。もし、長期化しそうな場合、次の3つを検討しましょう。
- 開発内容の記載を変更:短期で見通しがつけられるものに限定する。
- 開発期間を短く設定:見通しが付かなくても期間内で終了させる。
- 長期化した場合の対価調整:長期化しても相手(中小企業)の費用を負担しないことを確認する。
共同開発の費用負担
費用負担の定め方は、主に、次の2パターンが考えられます。
パターン1:各自が行う業務の費用を各自の負担とする方法
第〇条 (費用負担)
本開発に要する費用は、第〇条に定める業務の内、それぞれ単独で行う業務に関する費用は各当事者の負担による。共同で行う業務についての費用分担については別途協議し、書面において合意するものとする。
自社単独で行う業務に関する費用が自社負担と定められています。この場合、「役割分担」や「開発期間」が自社にとって過度な負担になっていないかを注意しましょう。
パターン2:一方の当事者が、他方の費用の一部を負担する方法
第〇条(費用負担)
甲及び乙は、自己の分担する業務を行うにあたって生じた費用をそれぞれ負担する。2 前項の定めにかかわらず、甲(委託者に近い立場)は、乙(受託者に近い立場)に対し、本開発に要する乙の費用の一部として金○○円(消費税別)を、〇年〇月〇日までに、乙の指定する銀行口座に振り込む方法により支払う。
スタートアップが提供する素材や技術情報が本研究や本製品の開発において重要な意味を持ち、他方、スタートアップの役割分担に要する費用が高額な場合は、本条のように事業会社が全費用を負担するということもあります。
ポイント3:成果の取り扱い
共同開発によって生み出された成果については、以下の点を明示することが重要です。
- 権利の帰属:成果は誰のものか
- 成果の取扱い:誰が利用し、どのように利益を分配するか
成果の権利は誰に帰属しますか?
先ほど役割分担のところで説明した通り、役割分担が次の通り成果の権利が帰属に影響します。
(a)甲単独で行う業務の成果 ⇒ 甲に権利が発生
(b)乙単独で行う業務の成果 ⇒ 乙に権利が発生
(c)甲乙共同で行う業務の成果 ⇒甲乙で権利を共有
しかし、成果へ貢献が、(a)甲単独か、(b)乙単独か、(c)甲乙共同か、どれか曖昧なことが多いです。
そこで、契約書で予め成果の権利帰属者を明確にしておきます。例えば、次のサンプルでは、成果物の帰属はどちらでしょうか?
第〇条(成果の帰属)
甲又は乙が、本契約を遂行する過程で、相手方の秘密情報に依拠して発明等をなした場合には、当該発明等に係る知的財産権は、別段合意がない限り甲乙の共有とし、持分比率については発明等への貢献比率を考慮の上、協議により定めるものとする。
この条文では成果は原則として「共有」であると定めています。一見すると、(a)甲単独、又は、(b)乙単独での成果に見える場合であっても、「相手方の秘密情報に依拠して発明等をなした場合」は、(c)甲乙共同の成果とみなして「共有」にすると定めています。但し、持分の比率は貢献の割合に応じて、協議して決めることとしています。
当事者の取扱い事業ごとに分けて、各社の事業ごとに権利が一方当事者に帰属する旨を定めています。
事業や技術分野ごとに権利を分ける例
第〇条(成果の帰属)
本開発に伴い得られた発明等(以下「本発明」という。)に関する知的財産権(以下「本知的財産権」という。)は、[技術分野]に属するものは甲の帰属とし、[技術分野]以外に属するものは乙の帰属とする(以下、本条に指定する[技術分野]に属する発明等を「甲発明等」といい、甲発明等に関する知的財産権を「甲知的財産権」という。また、本条に指定する[技術分野]以外に属する発明等を「乙発明等」といい、乙発明等に関する知的財産権を「乙知的財産権」という。
一見すると、 (c)甲乙共同での成果に見える場合であっても、技術(事業)分野で棲み分けをして、各分野ごとに(a)甲単独、又は、(b)乙単独の成果とみなして、甲乙それぞれに権利を帰属させる例です。
さらに、最近では、スタートアップが大企業と共同開発を行う場合に、成果の著作権をスタートアップに全て単独で帰属させる例も増えてきています。例えば、特許庁のオープンイノベーションポータルサイトの共同研究開発契約書(AI)のモデル条項では、次の通り、スタートアップである甲に成果の著作権が帰属する旨を定めています。
一方の当事者に単独帰属させる例
第〇条(本件成果物等の著作権の帰属)
本件成果物および本共同開発遂行に伴い生じた知的財産(以下「本件成果物等」という。)に関する著作権(著作権法第27条および第28条の権利を含む。以下、本契約において同じ。)は、乙または第三者が従前から保有していた著作権を除き、甲に帰属する。ただし、本連携システムおよび本ドキュメント(以下「本連携システム等」という。)に関する著作権は委託料全額の支払いと同時に乙に移転する。(略)
今度は、成果物の根幹技術が甲の技術・ノウハウに起因すること等に着目して、原則として、(a)甲単独の成果とみなして、甲に帰属すると定めているともいえます。但し、上記モデル条項では、成果物の根幹技術から外れる、「本連携システムおよび本ドキュメント」に限り、その著作権が大企業である乙に帰属することが後半で定められています。
契約に定めがない場合、共有成果を誰が利用できるか
共同開発によって生み出された成果を共有する場合、契約書に定めがないときは、次の通り、その成果が特許発明であるか、プログラムの著作物であるかにより、自社利用について、相手の同意の要否が分かれます。
- 特許の共有:各共有者の自己実施は自由にできる(特許法73条2項)
- 著作権の共有:他の共有者の同意が無ければ、自社利用は不可(著作権法65条2項)
また、特許でも、著作権でも、第三者に利用を許諾(ライセンス)する場合は、他の共有者の同意が必要です(特許法73条3項、著作権法65条2項)。もし、契約書で定めがない場合は、上記法律の定めに従うことになります。そこで、法律と異なる条件を望む場合は、契約書で予め定めておくことが必要です。以下、いくつかを例示します。
成果の取扱いの条項解説
各当事者が自由に自己利用できる例
第〇条(成果の取扱い)
1 当事者は、相手の当事者の同意を得ずに、本開発で生じた両当事者の共有の成果(以下「共有成果」という)を利用することができる。
2 当事者は、相手の当事者の承諾を得ることなく、共有成果を第三者に利用許諾することができない。
[3 前項に基づき第三者に実施許諾する場合、当該第三者から取得した実施料は、各当事者の持ち分に応じてそれぞれに分配されるものとする。]
上記の1では「成果」の範囲を限定せずに、著作権を含む成果について各当事者が自社利用できるとしているため、共有する著作権について他の共有者の同意なく委託者(事業を行う者)が自己実施できるという点において、委託者に有利な定めになっていると言えます。
上記の2は、法律通りの定めです。逆に、これとは別に、「・・・利用許諾することができる」との文末に変更すれば、ライセンス事業を行う予定の当事者には有利となります。上記の3は、第三者に実施許諾(ライセンス)した場合、その実施料(ロイヤリティ)の一部を共有者に分配することが義務付けられています。
対象分野(事業)ごとにすみ分ける例
第〇条(成果の取扱い)
1 両当事者は、本開発で生じた両当事者の共有の成果(以下「共有成果」という)の利用及び利用許諾等について、次に掲げるとおり合意する。
(1)○○社は、 日本国の内外を問わず、○○分野向け製品・サービスの製造、販売等に必要な範囲で共有成果を利用することができ、当該範囲を超えて共有成果を利用しない。
(2)△△社は、 日本国の内外を問わず、△△分野向け製品・サービスの製造、販売等に必要な範囲で共有成果を利用することができ、当該範囲を超えて共有成果を利用しない。
(3)前二号に規定する用途以外の用途に実施の希望が生じた場合、両当事者で協議の上、決定する。
(4)前三号の規定にかかわらず、両当事者は研究目的に使用することができる。
上記の1では、対象分野(事業)ごとにすみ分けて、各当事者の共有成果の利用範囲を定めています。Collabotipsの共同開発契約書の自動チェックなら、他のサンプル条項が無料で参照できます。
一方当事者が有する既存の知的財産権の利用とその対価
第〇条 (共同開発の目的・固有知的財産権等に係る確認)
1 固有知的財産権等は、当該固有知的財産権等に係る発明等(第8条第1項に定義する。)をなした当事者に帰属する。
2 「固有知的財産権等」とは、本契約締結前から甲又は乙が保有し、又は、甲又は乙が第三者から利用につき許諾を受けていた「秘密情報」及び「知的財産権」、並びに、相手方から提供された秘密情報に依拠せず、独自に創出又は取得した「秘密情報」及び「知的財産権」をいう。
3 本開発の成果の活用に必要となる固有知的財産権等がある場合、その利用許諾の可否及び条件については、別途協議により定める。
相手(中小企業を想定)が従前から有する知的財産権の取り扱いには注意が必要です。つまり、成果の実施に、相手が従前から有する知財の利用が必要な場合は、相手からその実施の許諾を得ておかないと、共有の成果を利用できなくなる恐れがあります。
例えば、上記の本ひな型では、各当事者に従前からある知的財産権(サンプル条項では「固有知的財産権」と定義)が本開発の成果の活用に必要な場合、その利用許諾の可否及び条件については、別途協議する旨を定めているため、委託者側(大企業)に不利な可能性があります。
そこで、上記サンプル条項の第3項の代わりに、次の通り、相手に従前からある知財(サンプルでは「固定知的財産権」と定義)については、事前に(無償又は有償の)実施許諾を得ておくことが有益です。
3 本開発の成果の活用に必要となる固有知的財産権等がある場合、甲及び乙は、相手に対して、相手が共有成果を利用する目的の範囲では、その実施又は利用することをそれぞれ許諾する。但し、許諾の条件は〔無償とする or 別途協議の上定める〕。
ポイント4:既存の自社のコアの強みの技術やノウハウを守る
競合開発禁止
第〇条(第三者との競合開発の禁止)
甲および乙は、本契約の期間中及び本契約の期間終了後〇年間、相手方の書面等による事前の同意を得ることなく、本製品と同一または類似の製品(本樹脂組成物からなる〇〇用の 〇〇を含む。)について、本研究以外に独自に研究開発をしてはならず、かつ、第三者と共同開発をし、または第三者に開発を委託し、もしくは第三者から開発を受託してはならない。
相手が自社の競業他社とも類似の共同研究開発を行い、そちらで成果物を特許出願されてしまうリスクがあるため、相手の競合開発を禁止する方法があります。
なお、「本製品」や「本研究のテーマ」の定義が曖昧であると、広汎な研究領域が競業避止の名の下に禁止されてしまい、当事者によっては大きなリスクとなります。他方、「本製品」や「本研究のテーマ」の定義が狭すぎると、本来禁止したい領域が禁止できないというリスクがあります。
そのため、「本製品」や「本研究のテーマ」の定義を実際の開発のスコープに合った内容を記載することが重要です。また、上記ひな形では、契約期間中だけではなく、契約期間後〇年間も禁止しています。
ただし、自社の追加開発も制限される可能性がある点に注意が必要です。自社の技術・ノウハウをベースにした開発で、自社のみが事業化を行うような場合、相手(「乙」)のみに競合開発の禁止義務を課することも考えられます。この場合は、上記ひな形の「甲及び乙は、」を「乙は、」と修正します。
ポイント5:競争法上の注意点
共同研究開発においては、競争関係にある事業者が複数参加する場合、独禁法上の問題が発生する可能性があります。独禁法21条では、知的財産権の行使と認められる行為には、独禁法が適用されない旨の規定があります。裏を返せば、知的財産権の不当な権利行使には、独禁法の規制が及ぶものと考えられます。共同開発契約の締結に当たっては、独禁法と抵触しないか、公正取引委員会の「共同研究開発に関する独占禁止法上の指針」や「知的財産の利用に関する独占禁止法上の指針」を参照し、他の参加者に不当な制限を課したりしないよう、適切な競争政策を考慮しましょう。
まとめ
今回は、共同開発契約書について、委託者に近い立場から、チェックポイント5点に的を絞って解説しました。
ポイント1:共同開発の目的(事業化に至ると思いこまない)
ポイント2:共同開発の役割分担、費用負担及び開発期間
ポイント3:成果の権利帰属及び成果の取扱い(利用者、利益配分)
ポイント4:既存の自社のコアの強みの技術やノウハウを守るポイント5:競争法上の注意点
秘密管理と自社の権利の保護が徹底されているのであれば、失敗を恐れず、スモールスタートにて、まずは新規の企業間コラボレーションに積極的にチャレンジすることもお勧めです。
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