【共同開発契約書】受託者の中小企業がチェックすべき6点とは | 弁護士監修
共同開発契約書とは、企業や個人が新しい製品やサービスの開発について協力するための取り決めです。契約書で秘密管理と自社の権利の保護を徹底できれば、失敗を恐れず、スモールスタートで迅速に企業間コラボレーションにチャレンジできるでしょう。この記事では、主に中小企業やスタートアップ企業の法務担当者が、受託者の立場で契約書を交わす際にチェックすべきポイント6点について、契約書自動チェックサービス”Collabo Tips”[コラボ・ティップス]を監修するメリットパートナーズ法律事務所の弁護士が解説します。
ポイント1:「共同開発契約」が適しているか
そもそも「共同開発契約」が適しているかどうかをチェックしましょう。お互いに技術ノウハウを出し合うのであれば「共同開発契約」が適切ですが、もっぱら受託者の技術・ノウハウを頼られて開発を請け負う場合は、「開発委託契約」が適していることがあります。
共同開発しても、事業化など期待した成果が得られない場合も念頭におきましょう。例えば、有名企業や異業種との協業の公表(プレスリリース)を目的とする「共同開発」もあります。
ポイント2:役割・費用・期間が明確か
共同プロジェクトでは役割や費用の分担、開発期間を明確にしましょう。
- 役割分担:各当事者の責任範囲や業務分担
- 費用負担:開発に伴う費用の負担方法や支払い条件
- 開発期間:開発プロジェクトの期間。
共同開発しても、期待した成果が得られない場合もあります。そこで、共同開発で何を達成したいのかをよく確認して、それに見合った役割、費用、期間を設定しましょう。 例えば、有名企業や異業種との協業の公表(プレスリリース)を目的とする「共同開発」もあります。この場合、役割は少なく、期間は短い方が良いかもしれません。
共同開発の役割分担
共同開発の役割分担は、各当事者(甲、乙)が単独で行う業務と、両者が共同で行う業務を区別して記載しましょう。=下記 サンプル条項第1項第(2)号
役割について定めた条項サンプル
第〇条 (共同開発の内容と役割分担)
1 甲及び乙は、次の通り、本開発を行う。
(1) 開発の目的、内容
〇〇の技術を利用した新たな〇〇に係る実用化を目的として、〇〇の技術の応用検討を行う。
(2) 役割分担
本開発の業務分担は、次の各号に定める業務分担項目のとおりとし、その詳細は別途甲乙協議の上その合意により決定する。
(a)甲単独で行う業務
(ⅰ) 〇〇
(ⅱ) 〇〇
(ⅲ) その他甲乙間で合意する業務
(b)乙単独で行う業務
(ⅰ) 〇〇
(ⅱ) 〇〇
(ⅲ) その他甲乙間で合意する業務
(c)甲乙共同で行う業務
(ⅰ) 〇〇
(ⅱ) 〇〇
(ⅲ) その他甲乙間で合意する業務
役割分担は、次の通り、成果の権利がどちら(誰)に帰属するのか、に影響します。
(a)甲単独で行う業務の成果 ⇒ 甲に権利が発生
(b)乙単独で行う業務の成果 ⇒ 乙に権利が発生
(c)甲乙共同で行う業務の成果 ⇒ 甲乙で権利を共有
共同開発の期間:長期化のリスクに注意
受託者側としては、無償の参画が長い期間になるリスクに注意します。 開発期間が1年、2年と長期化すると、思わぬ損失が発生することも考えられます。契約を交わす時点で長期化しそうな場合、次の3点を検討しましょう。
- 開発内容を変更:短期で見通しがつく内容に限定する。
- 開発期間を短く設定:見通しがつかなくても期間内で終了させる。
- 長期化した場合の対価調整:作業負担に見合う対価を相手に求められるようにする。
共同開発の費用負担
共同開発では、費用は各自負担だと思う方もいるかもしれませんが、一方が他方の一部の費用を負担するケース(パターン2)があります。中小企業が想定される受託者側の役割が大きい場合は、パターン2を契約に盛り込むことを相手と相談しましょう。
パターン1:各自の業務の費用は各自の負担
下記の契約サンプルは、自社単独で行う業務の費用は自社負担と定めています。この場合、「役割分担」や「開発期間」が自社にとって過度な負担になっていないかチェックしましょう。
各自費用負担を定めた条項サンプル
第〇条 (費用負担)
本開発に要する費用は、別紙2に定める役割の内、それぞれ単独で行う業務に関する費用は各当事者の負担による。共同で行う業務についての費用分担については別途協議し、書面において合意するものとする。
パターン2:一方の当事者が、他方の費用の一部を負担
たとえば自社がスタートアップ企業で、製品や技術の開発費用の負担が大きくなる場合、他方事業会社に全一部費用を負担するよう定めてもよいでしょう。
他方の費用負担を定めた条項サンプル
第〇条(費用負担)
甲及び乙は、自己の分担する業務を行うにあたって生じた費用をそれぞれ負担する。
2 前項の定めにかかわらず、甲(委託者に近い立場)は、乙(受託者に近い立場)に対し、本開発に要する乙の費用の一部として金○○円(消費税別)を、〇年〇月〇日までに、乙の指定する銀行口座に振り込む方法により支払う。
ポイント3:成果物の権利は明示されているか
共同開発によって生み出された成果については、以下の点を明確にすることが重要です。
- 権利の帰属(成果の権利は誰のものか)
- 成果の取扱い(誰が利用し、どのように利益分配するか)
誰に成果の権利が帰属するのか
先ほど役割分担のところで説明した通り、役割分担が次の通り成果の権利が帰属に影響します。
(a)甲単独で行う業務の成果 ⇒ 甲に権利が発生
(b)乙単独で行う業務の成果 ⇒ 乙に権利が発生
(c)甲乙共同で行う業務の成果 ⇒甲乙で権利を共有
しかし、成果へ貢献が、(a)甲単独か、(b)乙単独か、(c)甲乙共同か、どれか曖昧なことが多いです。
そこで、契約書で予め成果の権利帰属者を明確にしておきます。例えば、次のサンプルでは、成果物の帰属はどちらでしょうか?
第〇条(成果の帰属及び取扱い)
甲又は乙が、本契約を遂行する過程で、相手方の秘密情報に依拠して発明等をなした場合には、当該発明等に係る知的財産権は、別段合意がない限り甲乙の共有とし、持分比率については発明等への貢献比率を考慮の上、協議により定めるものとする。
この条文では成果は原則として「共有」であると定めています。一見すると、(a)甲単独、又は、(b)乙単独での成果に見える場合であっても、「相手方の秘密情報に依拠して発明等をなした場合」は、(c)甲乙共同の成果とみなして「共有」にすると定めています。但し、持分の比率は貢献の割合に応じて、協議して決めることとしています。
逆に、最近では、スタートアップが大企業と共同開発を行う場合に、成果の著作権をスタートアップに全て単独で帰属させる例も増えてきています。例えば、特許庁のオープンイノベーションポータルサイトの共同研究開発契約書(AI)のモデル条項では、次の通り、スタートアップである甲に成果の著作権が帰属する旨を定めています。
第17条(本件成果物等の著作権の帰属) 本件成果物および本共同開発遂行に伴い生じた知的財産(以下「本件成果物等」という。)に関する著作権(著作権法第27条および第28条の権利を含む。以下、本契約において同じ。)は、乙または第三者が従前から保有していた著作権を除き、甲に帰属する。ただし、本連携システムおよび本ドキュメント(以下「本連携システム等」という。)に関する著作権は委託料全額の支払いと同時に乙に移転する。(略)
これは先ほどとは逆に、一見すると、 (c)甲乙共同での成果に見える場合であっても、成果物の根幹技術が甲の技術・ノウハウに起因すること等に着目して、原則として、(a)甲単独の成果とみなして、甲に帰属すると定めているともいえます。但し、上記モデル条項では、成果物の根幹技術から外れる、「本連携システムおよび本ドキュメント」に限り、その著作権が大企業である乙に帰属することが後半で定められています。
誰が成果を利用するのか
もし、成果が「共有」となる場合、その利用方法についても契約書に定めておく必要があります。 特許権が共有の場合、契約書に何も定めなければ、各共有者の自己実施は自由に行えます(特許法73条2項)。その一方、第三者への実施(使用・譲渡など)を許諾(ライセンス)するには共有者の承諾が必要です(特許法73条3項)。
そのため、自社で事業化する資金が少ない当事者(中小企業を想定)は、第三者に実施許諾をしたくても、相手(大企業)の承諾がなければ、ライセンスはできません。一方、相手は、自社で事業化を行う資金力のあるため、第三者へのライセンスは不要であり、受託者側の承諾なく、自己実施をして収益化を図れます。
そこで、資金が少ない当事者は、第三者へライセンスする可能性がある場合は、その旨を定める条文を入れましょう。
第〇条(実施許諾)
1 甲又は乙は、相手の同意を要することなく、本発明等について第三者に実施許諾することができる。
2 前項の場合において、当該実施許諾を行う当事者は、その裁量により、本発明等の実施許諾の可否、実施料の有無及び金額等の条件を、第三者と協議し決定するものとし、都度、速やかにその交渉の状況及び契約状況を、相手に報告するものとする。
3 甲及び乙は、第三者から得られる実施料を、本発明の持分割合及び実施料発生過程における寄与率等を鑑み配分する。
ポイント4:成果の不実施に対価はあるか
資金力がない当事者(中小企業を想定)が自己実施をせず、第三者に実施許諾(ライセンス)もしない場合には、不実施を誓約することで、他方当事者(大企業を想定)に対価の支払いを求めることが考えられます。以下ではその旨を定めています。
成果の帰属を定めた条項サンプル
第〇条(成果の帰属及び取扱い)
1 甲及び乙は、前項により甲乙の共有とされた知的財産権に係る発明等の実施については、実施の条件及び費用等を含めて別途協議するものとする。なお、甲及び乙は、当該発明等について、相手方の事前の書面による承諾を得ることなく、第三者に実施許諾をすることができない。
2 甲及び乙の共有とされた知的財産権について、一方の当事者が他方の当事者に対して、当該知的財産権に係る発明等の不実施を書面により誓約する場合、当該他方の当事者に支払われるべき不実施の対価については、甲乙協議により定める。
一方当事者が有する既存の知的財産権の利用とその対価
相手の当事者(大企業を想定)のみが成果を実施する際、自社(中小企業を想定)に既存の知的財産権の利用が必要な場合、相手にその知財の実施を許諾し、実施料(ロイヤリティ)を請求できる可能性があります。
下記のサンプルでは各当事者に従前からある知的財産権(サンプルでは「固有知的財産権等」と定義)が成果の実施に必要な場合、その利用許諾の可否及び条件については、別途協議する旨(3)を定めています。
まずは自社の従前からある知的財産権を、成果の実施に利用する予定があるかどうかを確認しましょう。
従前の知財について定めた条項サンプル
第〇条 (共同開発の目的・固有知的財産権等に係る確認)
1 固有知的財産権等は、当該固有知的財産権等に係る発明等(第〇条第1項に定義する。)をなした当事者に帰属する。
2 「固有知的財産権等」とは、本契約締結前から甲又は乙が保有し、又は、甲又は乙が第三者から利用につき許諾を受けていた「秘密情報」及び「知的財産権」、並びに、相手方から提供された秘密情報に依拠せず、独自に創出又は取得した「秘密情報」及び「知的財産権」をいう。3 本開発の成果の活用に必要となる固有知的財産権等がある場合、その利用許諾の可否及び条件については、別途協議により定める。
ポイント5:情報の不開示は明示されているか
共同開発に参加する中小企業は、自社独自の技術やノウハウを流出させないため、不用意な開示・提供は避けなければなりません。
そのため秘密保持条項はもちろん、自社側が情報開示義務を負わないことを明示することも重要です。また、競合開発禁止を盛り込むことも重要です。
自社のコアな強みとなっている技術がひとたび流出すれば、自社の優位性が簡単に失われてしまうことにもなりますので、守るべき技術は、安易に開示しないことが重要です。
自社のコアな強みとなっている技術等を保護するため、本ひな形のように、秘密情報を相手方に対して開示する義務を負わないことを明記することが考えられます。
情報不開示の条項サンプル
第〇条 (情報不開示)甲及び乙は、本契約により、いかなる意味においても相手方に対する秘密情報の開示義務を負うものではないことを相互に確認する。
競合開発の禁止を盛り込みましょう
相手が自社の競業他社とも類似の共同研究開発を行い、成果物を特許出願されてしまわないよう、競合開発を禁止する条項を入れましょう。 この場合、「本製品」や「本研究」の定義があいまいだと、広汎な研究領域が競業避止の名の下に禁止されてしまい、当事者によっては大きなリスクとなります。他方、「本製品」や「本研究」の定義が狭すぎると、自社が本来禁止したい領域が禁止できないリスクがあるので、しっかり確認しましょう。
競合開発の禁止について定めた条項サンプル
第 〇条(第三者との競合開発の禁止)
甲および乙は、本契約の期間中、相手方の書面等による事前の同意を得ることなく、本製品と同一または類似の製品(本樹脂組成物からなる〇〇用の 〇〇を含む。)について、本研究以外に独自に研究開発をしてはならず、かつ、第三者と共同開発をし、または第三者に開発を委託し、もしくは第三者から開発を受託してはならない。
ポイント6:情報の扱いや契約違反の場合を想定しているか
共同開発の契約締結は事業化の前段階であることが多く、対価の発生や権利の移転等を伴わないことがあります。お互いが過度な負担を負わないように、開示した情報の正確性等の保証がないことを定めることを検討しましょう。
情報の正確性等の非保証を定めた条項サンプル
第〇条(非保証)甲及び乙はいずれも、自己を開示者とする秘密情報について、正確性、有効性、安全性、特定の目的への適合性又は知的財産権の非侵害その他いかなる事項についても何ら責任を負わない。
違約金や損害賠償についての条項はあるか
秘密保持義務違反などの契約違反を想定し、次のように違約金や損害賠償の上限を定めてもよいでしょう。請求者にとって損害額を立証するコストを省けるメリットがあります。債務者にとっても、リスクの把握が容易であるというメリットがあります。
違約金や損害賠償を定める条項サンプル
当事者は、相手方当事者に対し、損害賠償として以下に定める違約金に限り請求することができる。
違約金の金額 金○円
甲が本契約に関して乙に対して負う損害賠償の額は、第〇条に基づき甲が乙より受領した金額を超えないものとする。
パターン2:損害額の上限を定める方法
第〇条(損害賠償)
甲が本契約に関して乙に対して負う損害賠償の額は、第〇条に基づき甲が乙より受領した金額を超えないものとする。
債務者にとっては、リスクの把握を容易にすることができるというメリットがあります。
参考
契約書チェック「コラボ・ティップス」とは
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